池山吊尾根!?!?
大門沢小屋で同室だった同年輩氏から、北岳の下山コースとして池山吊尾根コースを勧められた。
そうだ、その道があった!
心のうちで歓声を上げてしまう!

今回は、どうしても北岳バットレスをこの目で見納めたいと、大樺沢を下るつもりをしていた。
しかし、人も多いだろうし、内心ではあまりパッとしないなあ...と思っていたところだった。
農鳥、間ノ岳でヘタリながらも、気持ちは池山吊尾根にすっかり出来上がっていた。
吊尾根からのバットレスは初見だ。
考えただけでもワクワクしてくる。
北岳の冬、残雪期の登下降に使われているコース、夏は人も少なく静かな山歩きが楽しめるに違いない。

広河原までの林道がなかった頃の北岳へのコースは色々なところから登られていたようだ。
近代登山の記録では広河原から大樺沢から登られ始め、のちには北岳と間ノ岳の中ほどにある北沢も登られていた。
そしてこの池山吊尾根も甲府方面から夜叉神峠を越え鷲の住山を経てよく登られていたようである。
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私がこのコースを初めて知ったのは、1958年北岳バットレス中央綾を冬季初登攀した故吉尾弘氏の記録だ。甲府で荷揚人夫を伴い車で夜叉神峠をこえ、林道の終点鷲の巣から野呂川に下り満員の荒川小屋の入ったとある。
地図で見ると鷲ノ巣、今は鷲ノ住山だろう。そこから野呂川に下ると支流の荒川が合流している。そこから池山小屋に荷揚をした、となっている。
精一杯意気がっていた私の短い現役時代は、穂高や劔の一部をかすめただけだ。
力の無い私にとって冬の北岳はとても遠いところにあった。
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今日はそんな青春の悔恨を噛み締めながら、吊尾根から心ゆくまでバットレスを眺めて、冥土の土産としよう。
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北岳山荘には1泊1食、朝食抜きにてチェックイン。
持参したガスバーナー、鍋にラーメン。
これを無駄にしては今までの苦労が浮かばれない。
朝陽に映えるバットレスを観賞しながら、孤独のグルメ(!?)を楽しむ三文喜劇のシナリオに酔っている。
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黒川紀章が設計したという北岳山荘のあてがわれた部屋は2階間ノ岳室。
ガラス窓越しにその名の通り間ノ岳がよく見える。一方の窓からは富士山が見え、甲府の夜景も見える。
素晴らしい眺めだが先着の人たちの布団が並べてあり接近不可能。
自分の持ち場に身を横たえれば、あとは用を足すぐらいの動線が残されているだけである。
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夕食が終わればやることはない。
受付のカウンターに貼ってあった地図を見ながら吊尾根コースの所要時間を確認した。
八本歯のコルからボーコン沢の頭まで1時間半。
そこから池山小屋まで2時間。
さらにバス停のある、あるき沢橋まで2時間弱となっている。
奈良田行きバスが広河原を11時10分に出る。
それから5分か10分後にはあるき沢橋に着くだろう。
そのバスに乗り遅れたら、次のバスは3時間後だ...
ゆっくり休憩もしたいので5時台には八本歯のコルを過ぎて吊尾根に入っていたい。
そのためには、頂上には遅くとも4時半ごろには立っていたいなあ、と思いながらうつらうつらしていた。
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しかし、イビキが至近でずっと聞こえていて気になり、それがこちらと思えばまたまたあちらという具合に追い討ちをかけてくる。
イビキがふっと止まったかと思うと無呼吸状態になったり、そんなことも気になって仕方がない。
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そんなこんなで2時半には心を決めて、荷物を抱えて寝床を出た。玄関でパッキングをすませ、カッパを羽織ってライトを点けて小屋を出る。
私が一番だったようだ。
部屋が暑かったこともあり、外も思ったほど冷気は厳しくなかった。
もっとも冷え込みは夜明け直前だろう。
しばらく歩いて小屋の方を振り返ると間ノ岳の方に向かうライトが一つ、二つと見えた。
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リュックは脱いだカッパと一緒に吊尾根分岐に置き、頂上を目指した。
4時過ぎに頂上に着いたら、すでに一人が御来迎を待っていた。
そこへもう一人が肩の小屋の方から登ってきた。
お互い無言...
それぞれが自分の世界に浸っているのだろう。
夜明け前の東の空は澄み切っている。
言葉を発すると何かが壊れる。
自然と一体化しているところに語りかける言葉などいらない。
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写真中央の光の点は先着の方のもの。
数枚のアリバイ写真を撮ったらすぐに頂上を後にした。
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北岳山荘やテントなどにも明かりが灯っている。
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目につくものすべてにシャッターを切ってしまう。
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刻々と周りの色合いが変わる。
この時、この場に居合わせて、とても幸せである!
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鳳凰三山
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八ヶ岳
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北岳を振り返る。
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スカイラインはバットレス4尾根
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大樺沢俯瞰。
当初はここを下りながらバットレスを眺めようと思っていた。
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日の出の瞬間!
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朱に染まる岩壁。
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陽が射し始めた
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八ヶ岳...ピントが甘い。
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家人の一押し写真。
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間ノ岳の向こうに農鳥岳
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日本画のような八ヶ岳
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北岳
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八本歯コル付近
老夫婦が大樺沢を下っていった。
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コルからは短い岩稜を登る。
手がかりはしっかりしているが、朝イチは体がまだぎこちない。
基本に忠実に三点支持である。
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雪がつけば当然ザイルに頼ることになる。
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北岳から降りて八本歯のコルに至る道を振り返る。
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約束通りバットレスを見ながらラーメン!
いわゆる大メーカーのラーメンを食べると下痢することがあるので、オーガニック系のラーメンを購入した。
味はイマイチ。
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十字クラック
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バットレス中央稜
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4尾根マッチ箱のコル、シュバルツカンテ、Dガリー奥壁かな...
いまの時代の用具で登ればなんてことはないだろう。
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ピラミッドフェースも、Oさんと東山工業高校生の誰だったっけ...と一緒に登ったなあ...
彼の属する高校山岳部は、夏に槍穂高に合宿に行ったら名古屋まで歩いて帰って来るっていっていた....
若さってすごいなぁ...そんなことを思い出してしまった。
今は遠い幻...
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中央稜の向こうからの亀裂がマッチ箱につながっているということは...
マッチ箱のコルが崩れるような断層があるということか...
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バットレスとは今生の別れだね...多分...
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思いもよらぬ藪漕ぎ。
だが、藪の下にある踏み跡を足先で探りながら進むことができる。
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農鳥岳、間ノ岳
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甲斐駒ケ岳
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キャンプ跡地、古いんだろうね...最近使われた形跡はない。
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ボーコン沢の頭か?イマイチわからない。
ハイマツの中に道が隠れている。
足先で探りながらの藪漕ぎ真似事。
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このケルンは....
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コースの道しるべ。
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ようやく姿を見せてくれた槍穂高連峰。
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見納めぢゃ。
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同じく見納め。
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矢印の方に進む。
腕時計が竜頭の出過ぎで、6時25分で止まっていたことを気づかないでいた。
時々、腕時計見ては、まだまだ余裕あるじゃん!って思っていた。
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バットレスの思い出、子供達との思い出...本当の見納めだ!
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あちこち向いて写真を撮る。
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ほいじゃあ..あばヨ..と下りかけたら...
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目の前に雷鳥の群れが...
トコトコと逃げ惑う...
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カメラのピントが合わない。
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樹林帯に入り、靴の中にゴミが入るのでスパッツをつけることにする。
日はずいぶん高くなり、ヘリでの荷揚も始まっている。
しかし、まだ時計が止まっていることに気がついていない。
余裕だなあ....
スパッツをゆっくり着けて時計を見た。
ありゃ、止まっているじゃないか!
何処から何分歩いたか、いまの位置も全くわからない。
携帯を見ると8時23分じゃないか!
こりゃ、しくじった。
それからはストックを使って膝をカバーしながら死に物狂いのダッシュ!。
幸い緩傾斜が続き、落ち葉が積もっていて自然のクッション、膝へのショックがキツくない。
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9:04
脱兎のごとくかけてきたら、いきなり...池山御池小屋。
森の中の可愛い小屋...
白雪姫と7人の小人たちがいまにも飛び出てきそうだ!
中を覗きたかったが、心がせかされていて..パス...
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9:06
池に水があるのか無いのかわからない.
とてもメルヘンチック。
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ここで愛する人と焚き火でも囲みながら一晩過ごしたいなあ、って昔ならそんな夢も見ただろうな...
さて、ここから、あるき沢のバス停まで1時間半から2時間弱。
この時間だったら11時のバスに間に合うだろう。
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9:10
道にはピンクのテープ標識がつけられているが時々わからなくなる。
傾斜のないところでは特にそうだ。
焦ってはいけない、ミスコースは取り返しのつかないことになりかねないと自分に言い聞かせた。
道が急な下りに差し掛かると、枯れ葉のクッションが無くなり、膝がショックを直接受けることになる。
一気にスローダウン、本来のヨチヨチ歩きに戻ってしまった。
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10:48
前半の貯金が効いて、この時間!
バスは11時22分。
30分以上の待ち時間がある。
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車の往来もほとんど無い。
涼しい風が吹き、木々のざわめき、鳥たちのさえずりをじっと聞いているとなんとも癒されてくる。
誰とも会うことのなかった今日の池山吊尾根は、北岳から私へのプレゼントだったのだろうか...
ガードレールに凭れながら、半ば目を閉じて、時の過ぎることさえ忘れている。
...と、バスが近ずく轟音が聞こえてきたのだった。
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最初に見つけた風呂はここだった。
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この坂を5分ほど歩いて登らなくてはならない。
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この日はとても涼しかった。
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風呂を出たところ。
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風呂につかると肌がにゅるにゅるというかすべすべというか。
ヒノキの風呂が気持ち良い!
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奈良田にはもう秋の気配が忍び寄っている...

今回のハイライトはやはり北岳だった。
しかしそれは農鳥、間ノ岳を歩いてきたからこそ、である。