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其の弐から続き)

もうすぐ仙丈ヶ岳に朝日がさす。
6合石室で一人夜を過ごした。
星を見るといって小屋からテント泊に替えて出て行った2人組にならい、夜半外に出てみた。
スカッと澄み切った空ではなかったがそれなりに星も見え、銀河の流れも本当に久しぶりに確認できた。千𠀋の頂上付近の小屋の明かりが意外な近さで光を放っている。
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八ヶ岳も朝日を待っている。

4時頃に起きて朝食を取りながら荷物の整理だ。
昨日は水7.5Lを担いで歩き出した。途中、ふんだんに水を飲み、この石室についてからもよく水を使ったので今日は4L弱が歩き出しの水の量だ。
今日も途中水の補給が出来ないコース。無理すれば仙水峠から仙水小屋のテン場まで下れば補給可能だが・・・
食糧も大分消費して、ゴミの量が増えた。なので、リュックも大分軽くなったはずだが、疲れた体にはまだまだ重たい。
小屋の扉を開けて出発。
4時50分。
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鋸岳第二高点に曙光
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同じく千𠀋ケ岳
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朝もやの上に浮かぶ中央アルプス・・だったかな?
今日も素晴らしい天気だ。今朝の空気、2500mのここはさすがにヒンヤリとしている。
吹く風も高山らしい冷気を含んでいた。
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鋸岳
登山は眺望命。今日はとても良い。
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そして朝焼けからたちまち・・・
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甲斐駒の頂上への道はまだ日影だ。
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御岳
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乗鞍
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槍穂高連峰
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八ヶ岳連峰
刻々と色彩が変わる山の表情にすっかりはまり込んでしまう。
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のんびりしすぎてたらこの道にも陽が当たり始めるぞ・・・
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花まで撮ってしまう。
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頂上の祠が見えてきた。
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頂上着6時30分
今日も得意のスローな登山だなあ・・
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考えてみれば28年ぶりの頂上。
何度も登っているはずだが全く記憶がない。
岩登りのあとの頂上にはさして感慨を覚えなかったのだろうか。
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後ろ向きの職場の青いシャツを着た仮にHさんと呼ぼう、ネームにHさんと刺繍がしてあったから。
名前を名乗り合って無いので・・これから殆ど行動を共にすることになる。
声をかけたら懐かしいお国訛り。やっぱり福井の人だった。
私より二歳上。60歳定年を過ぎてから100名山を登ったというスゴい方だ。
100名山に関心が無い私でも100名山を登ったという方には尊敬の念が湧く。
昨日は黒戸尾根を七𠀋小屋にてテント泊され、今日は早川尾根をあるき地蔵岳から下山したいが今日中には「無理やろね」・・・
早川尾根と聞いて嬉しくなった。
旅は道ずれである。しかし一緒に歩くとお互いに負担だ。
つかず離れずそれぞれのペースで歩くことになる。
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塩見岳方面
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北岳方面
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出ました!鳳凰連山のうえに富士山!
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おんなじような写真だがもう一枚。
いい天気、眺望に恵まれ幸せだ。
言葉はいらない。
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戸台方面
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摩利支天に向かう人
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7時、Hさんと前後して頂上をあとにした。
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幾何模様な六方石。
摩利支天の魁偉で奔放な風貌と花道ならぬ登山道に位置する六方石。
甲斐駒ケ岳を歌舞伎役者に見立てて山の団十郎とはよくいったものである。
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遠ざかる甲斐駒ケ岳。
造山運動のベクトルは右側から激しく持ち上がったのだろうか?
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鋸岳。鋸岳が水成岩の持ち上がった崩れやすい岩質が六合石室あたりから甲斐駒では花崗岩質に変わる。
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徐々に北沢峠からの登山者が増えてきた。行き交うときには時間待ちも・・
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鳳凰三山方面と今日今から向かう早川尾根。
富士山が見えなくなってしまった。
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槍、穂高方面はまだこの通り
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駒津峰でちょい休憩。8時10分。
朝、六合石室から頂上まで450m登った。甲斐駒の頂上から仙水峠まで700m下る。そして早川尾根の栗沢山には500m以上登ることになる。何とも南アルプス的な縦走日だ。
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摩利支天。
この中央壁独標ルートには何度も登ったなあ・・
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ガクンと下って仙水峠。
9時20分
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これから登る早川尾根方面。
ここからはちょっと感傷旅行だ。
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摩利支天の壁に取り付くには名古屋からだと戸台からバスで北沢峠にあがり、この仙水峠から谷に下り地層が傾いたバンドの斜面をたどっていけば見た目より簡単に取り付ける。
ひとときこの辺りの壁に関心があったのでよく通った。
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仙水小屋の主人の矢葺さんにもずいぶんお世話になった。
しかし間もなく現役から退いたのでずっとご無沙汰である。
矢葺さんの飄々とした気さくな性格、話し方は私たちの間でもとても人気があった。
山小屋には珍しくハマチなどをおろして、夕食のおかずに刺身などを供することもあった。
矢葺さんが組織して中国へ登山することになった前後の頃のことだ・・・
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で、今回早川尾根を縦走したいと思ったのは・・

赤蜘蛛同人が辛苦の末開拓に成功した甲斐駒ケ岳赤石沢ダイヤモンドフランケA、Bそして奥壁に私は1974年に登攀することが出来た。もっとも奥壁は赤蜘蛛ルートではなく憧れていた左ルンゼ白稜会ルートを登ったのだが・・・
私がまだ20代半ば、岩登りを始めて2年目のことだ。
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サデの大岩

その11年後。
1985年。奇しくもあの御巣鷹山に日航機が墜落した数日後、私は現役最後の登攀となる摩利支天サデの大岩、摩利支天東壁、摩利支天中央壁を継続した。
さしたる困難なものではなかったが真夏の日差しにさらされて水に飢えながらも、2パーティに分かれて和気あいあいと楽しく登ることができた。
奥壁まで行けなかったことが悔やまれるがそれでも満足だった。
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そんな岩壁群が早川尾根、アサヨ峰付近から眺められるという。
とくにダイヤモンドフランケはアサヨ峰付近から撮った写真が昔の山岳雑誌に載ったのを憶えている。
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私のクライミング生活の初期と最後を「飾った」そんな追憶の岩壁群を同時に眺めながら、老いさらばえた私からハロー、グッバイと挨拶したかったのだ。
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11時栗沢山到着。
あるいは栗沢の頭ともいっていたなあ。
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甲斐駒ほどではないが、行き交う人もかなり多い。
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栗沢からアサヨ峰
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サデの大岩、何度でもカメラを向けてしまう。
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雲がかかりはじめた。
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アサヨ峰頂上直下
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12時50分、アサヨ峰到着。
かなりヘトヘトである。
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Hさんもほどなく到着
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三等三角點
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摩利支天の向こう赤石沢は雲がまとわりついている。
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1サデの大岩 2摩利支天東壁 3摩利支天中央壁
摩利支天の向こうには赤石沢ダイヤモンドフランケA、Bも確認できる。
さて、アサヨ峰から今日のねぐら早川小屋へと向かう。
一見平凡な尾根歩きに見えたが所々、這い松やシャクナゲが多い被さっていて歩き辛いところもある。幾つかのピークを上り下りしているうち、懐かしい岩壁がはっきり姿を現してきた。
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1ダイヤモンドフランケA、2ダイヤモンドフランケB、3摩利支天東壁
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不思議な気持ちだ。
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岩登りを始めた頃に登った壁と・・
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山から去る直前に登った壁を同時に見ている。
赤石沢奥壁も見えて来た。
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隔てた距離以上に長い年月が横たわっている。
虚しくもいとおしくもある過ぎ去った歳月・・
思い出多い岩壁群と昔の自分に今こそ・・
ハローグッバイ!
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ここまで導いてくれたアサヨ峰
疲れた体を引きづりながら早川小屋へと向かう。
長く感じられる。
小屋の手前で雷がゴロゴロしたとおもったら夕立がやってきた。
小屋に着いたらさらに激しく降りつのる。
ツェルト泊から小屋泊素泊まり4000円に変更したらほどなく嘘のように雨は上がった。
Hさんも同じく小屋素泊まり。
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今朝、夜叉神を出発したという青年もテントから小屋に逃げてきた。
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小屋は樹林帯の中にある。
近代化された北アルプスの山小屋に比べれば昔ながらの素朴な小屋だ。南アルプスでは一部を除いて過剰な期待をしてはいけない。
古き良き時代にタイムスリップできるのはここに来た人だけの特権だ。
カンビール600円は痛いがやむをえない。ヱビスビールである!
お湯をかけるだけのチキンライスを食べたが疲れすぎたのか食欲はイマイチだ。ビールで流し込む。
Hさんは食欲旺盛なようだ。
Hさんは明日は地蔵岳に登り返し登山口にデポした自転車で黒戸尾根の取り付きにある車まで移動するそうだ!イヤハヤ大変なお方だ。
消灯は6時半!
疲れた体を横たえればすぐ眠りにつけそうなものだが相変わらず眠りが浅い。
目覚めて時計を見ればまだ8時20分。
甲斐駒を登り仙水に下り早川尾根を越えてきた長い一日。
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昔登った岩壁群に邂逅を果たしハローグッバイした感傷。
疲れたが充実した1日だった。
明日は広河原峠から下山だ。広河原からバスを乗り継いで戸台に戻ればいい。
ウツウツとしながら夜明けを待つ。

終章に続く)